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沖縄県環境科学センター取材「HACCP義務化のビフォーアフター」【後編】

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taka

衛生管理のプロによる鼎談(ていだん)は、いよいよHACCP義務化の話に

沖縄を舞台に食の安心安全を守る「沖縄県環境科学センター『HACCP義務化のビフォーアフター』」もいよいよ【後編】に。衛生科学部奈宮正和部長、衛生科学部食品衛生課前田義徳課長、衛生科学部食品衛生課石原彩子技師の3名による鼎談(ていだん)。自己紹介や沖縄県環境科学センター紹介から始まった訪問取材の締めはHACCPの話題に。ハサップログ開発担当の末𠮷健悟が話を伺いました。※文中敬称略

左から奈宮さん、石原さん、前田さん

-沖縄県環境科学センターの成り立ちや「衛生科学部」の仕事内容が垣間見えてきました。1981年12月の設立から43年目ですね。その間、「衛生管理」に対する意識は時代の移ろいと共に変化しています。特に2021年6月にはHACCP完全義務化となりました。

前田 まずは2000年7月のG8九州・沖縄サミットの際に、内地(本州)から著名な専門家の先生方が来沖され、沖縄の食品衛生の現状確認及び衛生管理体制の構築・指導された歴史があると聞いています。おかげ様で、今でもお付き合いが続いている先生方もいらっしゃいます。

奈宮 世界的なイベントが開催されるタイミングで、様々な分野で見直しや改善の契機となることは多いですね。食品衛生管理においても、各国VIPや世界中からの訪日観光客をお迎えするにあたり「グローバルスタンダード」が求められますから。

前田 確かに2020年東京オリンピック(競技大会・東京パラリンピック競技大会)が夏に開催される予定直前の2020年6月にHACCPの義務化(2021年6月にHACCPの完全義務化)となっていますね。

奈宮 2000年7月のG8九州・沖縄サミットを機に沖縄の食品衛生に対する意識が高まったように、2020東京オリンピックに向けて「食の安全を世界基準に合わせる」空気感を醸成しながら、HACCP完全義務化のタイミングとなりました。

-新型コロナウイルス禍により、実際は東京オリンピックは2021年に延期開催となりましたが、世界的なイベント開催に合わせて様々なモノが見直しや改善の契機となることは興味深いですね。確かに2000年のG8九州・沖縄サミットを機に沖縄の食品衛生に対する意識は高まった実感はありました。実は当社松幸産業でも食品衛生関連の検査機器の発注や問い合わせが増えたことを思い出しました。食品衛生への意識は高まっている流れでしたが、それでもHACCP義務化の前と後では違いは感じられましたか?

石原 HACCP義務化前は、食品業界の中でもHACCPの言葉を知らない人も多かった気もします。また、何となくは聞いたことがあるけれど、「衛生管理って何をやるの?」「記録を取れと言われても、何の記録を?」との声も耳にしました。

前田 そうですね、HACCP義務化までは食品を作る工程は、「その人の中だけにレシピや作り方が入っている」状況も見受けられましたね。職人気質のような、「見て学べ」みたいなところも感じられました。そのような手法は良い面もあるが、あいまいで伝わりにくい側面もあります。そうなると、極端な例として「個人各々の工程」となるリスクも懸念されます。その点、HACCPは誰が担当しても衛生管理(一般衛生管理と重要管理点について)の手法を統一できるように、手順を文書化して「見える化」へと移行したことが大きいのかな、と思います。

石原 HACCPは「食品中で発生することが予想される危害要因を特定しそれを除去または低減するための管理方法」とされています。HACCPは、1960年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)で生まれ、宇宙計画用の食品を開発した時に考案されたと言われています。宇宙で食中毒になったら大変ですよね。

-これまでの「抜き取り検査」主体の衛生管理から、危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理する「HACCPに基づく衛生管理」の時代となりました。

石原 「抜き取り検査」ですと、数個の検査結果によりこのロットで作られた100個、1000個は安全ですよ、と安全を担保する考え方になります。数個の検査で全ての製品の安全を担保出来るのかと言われると…疑問は残ります。また、抜き取り検査で不合格だった場合は、一連の製品を廃棄することになり、非効率です。一方、HACCPでは危害要因分析(HA:Hazard Analysis)を実施し得られる”最後の砦”重要管理点(CCP:Critical Control Point)を設定し、その重要管理点における「管理手段」を実施することで、安全な製品を製造しましょうとの考え方になります。重要管理点をモニタリングすることで継続的にその工程の状態を把握し、それを記録し管理することが、HACCPの根柢の考え方だと思います。製品や工程によって異なりますが、代表的な重要管理点として「加熱工程」、「金属探知機工程」などが挙げられています。

前田 HACCP完全義務化ということもあり、HACCP構築などのコンサルタントに関するご依頼が増えてきております。私達のコンサルタント業務の方針として、ご依頼いただいた企業様の一般衛生管理状況を確認したうえで、ご依頼主様に最適なコンサルティング内容のご提案をさせて頂いております。HACCPに取り組む際のお話をします。例えば、ピラミッドの様な形をイメージしてください。その土台には「一般衛生管理」がありその上に「HACCP」が構築されています。土台の「一般衛生管理」がしっかり構築されていないと、土台がぐらつき「HACCP」の構築がうまくいかなくなります。「一般衛生管理」はHACCPに取り組む上で前提的に実施できていないといけません。そのための事前確認を行います。当法人へのご依頼でも、一般衛生管理の土台が不十分なケースが見受けられます。いきなりHACCPに取り組むのではなく、まずは土台の一般衛生管理をしっかりと構築することが大切です。


奈宮 沖縄県環境科学センターの「食品部門のあるべき姿」としてお客様と社会に感謝され家族や仲間に誇れる食品部門を目指します。とあります。
行動規範として
1.全ての人の食の安全とウチナー食品業界の発展を常に考えます
2.親身になってお役様に寄り添います
3.技術の先導と共に6K視点(気付き、共有、協力、改善、研鑽、効率)で自ら考動
4.ワンチームで全ての力と情熱を注ぎます
とあります。



前田 先ほどの繰り返しになりますが、コンサルタント業務においては「認証を取るためのコンサルタント」で終わることなく「認証は目的であり、取得後の適切な運用・管理」のサポートを目指しています。

石原 認証後やHACCP構築後も継続的に教育訓練を含め様々なサポートしています。

-近年は食中毒の話題が大きく取り上げられるなど、食の安全・安心に対する意識が高まっています。

前田 そうですね、昔は「これぐらい大丈夫だっただろう」で流れていたこともありましたが、消費者の視点は厳しくなっています。

奈宮 「お申し出品」に対する検査自体も去年、一昨年あたりから増えてきています。異物を早く調査して顧客に報告する期間を短くしています。それまでの約2週間を最短3日で回答できるように目指しています。

奈宮 沖縄県環境科学センターでは特定が難しいものを深く追求するための検査が多く、長い納期になることもあります。

前田 最初に「どこまで判明すれば大丈夫ですか?」が分かると納期短縮につながります。例えば、動物の毛なのか、衣類の繊維なのか、植物の繊維なのかを分かれば良いのであれば判別は早くなります。一方、仮に動物の毛だとして、「種類の特定」までは時間がかかります。ご依頼者側のニーズを最初に確認して柔軟な対応を意識しています。

奈宮 私達もFM21のラジオ番組を通じての「食中毒予防にはこういうことが大切です」など啓蒙活動もしています。(※2024年の1月までFM21の番組で、第二、第四 木曜日の13:00~14:00「レッツ・イート・モア 教えて沖縄県環境科学センター」)

-沖縄県環境科学センターでは様々な取り組みで「安全・安心な生活環境の実現と自然環境の保全・再生を目指して」いらっしゃることが伝わってきます。最後に食品業界の2024年の展望をお聞かせください。

石原 国が政策として方針に挙げている「農林水産物、食品の輸出拡大実行戦略」に向けて食品事業者様の取り組みが複雑になってくると考えております。

前田 沖縄にも訪日外国人観光客によるインバウンド需要がより多くなるでしょう。沖縄にも外資系ホテルの建設が増えています。よりグローバルな考えや基準に合わせていくことが、集客につながるかと思います。

石原 それもあり、沖縄県内でもJFS規格やISO22000、各業界団体HACCP等の認証を取得される企業さんが増えてくると思います。 

奈宮 確かに沖縄もコロナ禍前よりも観光客の方が増えている感じです。その反面「人手不足」の話も聞きます。DX(デジタルトランスフォーメーション)など絡めて、人手不足を補っていくかと思います。

沖縄県環境科学センター取材の振り返り

取材後記が入ります

この記事を書いたライター

taka

taka

佐藤 貴洋(sato takahiro)。1973年横浜市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部中退後、イタリア国立ペルージャ外国人大学留学。日刊スポーツ現地イタリア特派員として元日本代表MF中村俊輔のRegginaでの3年間を毎日取材。同時にLivedoorにてイタリア最大スポーツ新聞La Gazeetta dello Sportの翻訳記事を配信。2007年に日本帰国後は日刊スポーツ広島総局記者としてJリーグ、プロ野球、高校スポーツを担当。その後、広告代理店で各種大学・企業の広報誌などを、Webサイト制作会社でWebディレクター、Web広告運用などを経て2022年独立。趣味はフットサル、総合格闘技ジムROOTS。

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